東京高等裁判所 昭和33年(ネ)2182号 判決 1960年2月29日
横浜市南区永楽町一丁目五番地
控訴人
靑原茂春
右訴訟代理人弁護士
菊地政
被控訴人
国
右代表者法務大臣
井野碩哉
右指定代理人検事
舘忠彦
同
大蔵事務官 恩蔵章
田中祐司
右当事者間の昭和三十三年(ネ)第二一八二号所有権移転登記請求控訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、訴控代理人において、乙第六ないし第九号証を提出し、当審における証人山田茂秀、蓮江秀雄の各証言及び控訴人本人の供述を援用し、被控訴代理人において乙第六ないし第九号証の成立は不知と述べたほか、原判決摘示の事実及び証拠関係と同じであるから、これを引用する。
理由
当裁判所の判断は、次の点を附加するほか、原判決の理由に説示するところと同じであるからこれを引用する。
原判決挙示の甲第二、三号証、原審証人渡辺政夫の証言を綜合すると、訴外靑原工業株式会社から納税に関し所轄税務署に提出された昭和二十九年四月一日以降昭和三十年三月三十一日まで及び同年四月一日以降昭和三十一年三月三十一日までの決算報告書には、本件建物が右会社の資産として記載されており、税務係員の調査に際しても右会社の経理担当係においてこれを認めていたものであることが認められ、又原判決挙示の甲第七号証の一、二、原審証人高橋諦の証言を綜合すると、右会社に対する和議申立事件においても、本件建物は右会社の財産として和議手続が進められたもので、当時右建物が登記簿上右会社の代表者であつた控訴人個人の名義となつていたところから、右和議申立の衝に当つた高橋弁護士から控訴人に対し右登記名義を会社名義に移転するように勧めたが、控訴人において右名義書換に応じなかつたけれども和議手続としてはそのまま進行したものであることが認められ、これらの事実と原判決の認定する諸事情(但し原判決認定の事実中、訴外会社の帳簿に本社土地建物に対する仮払金の項目の記載されたのが昭和二十九年四月一日であり、とある部分を、訴外会社の昭和二十九年四月一日以降の年度の決算報告書には本件建物に対する仮払金の項目の記載があり、と訂正する)とを併せ考えると、本件建物は登記簿上は控訴人個人の所有名義になつているけれども、実質上は控訴人個人の所有ではなく、右会社の所有であると認めるのを相当とする。
もつとも当審証人山田茂秀、蓮江秀雄の各証言、原審及び当審における控訴人本人の供述によると、本件建物の購入資金は、当時右会社の経理状態に余裕がなかつたため控訴人自らその調達に奔走したものであること及び右会社の経理担当係は経理資金遣り繰り等に無理をしており会社帳簿の仮払金の金額の記載も必ずしも正確なものでなかつた事情はこれを認め得るのであるが、これらの証人及び本人の各供述中、原判決及びさきに認定したところに反する部分並びに乙第八号証の記載は、さきに採用した証拠に照しこれをそのまま信用することはできないし、右に認定した事情によつては未だ前認定を左右するに足らない。又乙第一、四号証、第九号証の記載もこれをさきに採用した証拠に照すと未だ前認定を左右するに足らないし、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
よつて被控訴人の請求を認容した原判決は相当で本件控訴はその理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 薄根正男 裁判官 村木達夫 裁判官 元岡道雄)